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2009/08/27

非完備市場

確率的割引係数アプローチによる非完備市場のリアル・オプション評価手法についてまとめ直し.5年近く放置しているとサビますね…

2009/08/25

数値計算

昨日の日記に書いた方法で何とか数値計算は動いた.が,パラメータをいろいろ変化させると振動解が出る.とりあえずここまでにしとくか.

インターンシップやレポート課題でスタックしていた学生が研究モードに復帰.連続時間-連続状態の枠組における確率的割引係数(stochastic discount factor)に関する課題を解説する.

組み合わせDAの方は,10000回くらいやると社会的余剰は正規分布,仲介者の損失の分布は対数正規のような形で得られるようだ.何か理論的に言えないのかな.

2009/08/24

ふんぬー

午前中は10月からやって来る研究生とテーマの打ち合わせ.都市交通における渋滞緩和とCO2排出抑制の両方を実現するために「排出権」と「通行権」を組み合わせた市場モデルを考えてはどうか,という話に.自明解が出てくるような気もするが,勉強がてら,ということで.

フィルタリング+タイミング選択問題は,先週の金曜日に思いついた境界条件を与えて数値計算.
が,相補性問題にいく前の偏微分方程式で振動解が出てくる.

推計誤差が大きい時の境界条件が間違っているっぽい.が,どんな境界条件が妥当か判らない.
推計誤差が0の時は確定ルールで解が求まるのだから,そこから格子を正方向に辿りながら逐次計算していく方法を試してみよう.

2009/08/20

境界条件

午前中は某審査に関わる書類のチェック.ぜんぜん要請を満足していない.まじめに審査する必要あるの?的な.
何じゃこりゃー!!と怒っていたら午後イチの会議を忘れ,呼び出しを受ける.スイマセン…

午後,数値計算方法を考えてるうちに境界条件をどうすればいいのか悩む.系を記述する偏微分方程式や一般化相補性問題を求めることは,状態変数のダイナミクスさえ判れば機械的に導出できる.しかし,境界条件についてはモデルの特性を理解し「人間の手で」求めてやる必要がある.Shibata(2008) で参照されている Bernardo and Chowdhry (2002) を読んでみることに.

μをプロジェクト価値の推計値,Sをプロジェクト価値の推定分散とすると,境界条件はこんな感じで求められるような気がする.
・μ=0 :投資は行なわれない.
・μ→∞:すぐに投資が実行される.F=μ-I
・S=0 :確定的ルールに従う.F=max(μ-I, 0)
・S→∞:投資は以後も決して実行されない.
問題なのはμ=0とS→∞のときのFの値だなぁ…

組合せダブルオークションのシミュレーションはいい感じの結果が出ているようだ.数字が出てくるのは楽しいな.

[1] Shibata, T., 2008, The impacts of uncertainties in a real options model under incomplete information, European Journal of Operational Research 187, 1368–1379.
[2] Bernardo, A. E. and Chowdhry, B., 2002, Resources, real options, and corporate strategy, Journal of Financial Economics 63, 211–234.

2009/08/19

不完全観測の下でのリアルオプション

投資前にはプロジェクトの価値を直接観測できないような状況で,観測情報からプロジェクト価値を推計しながら投資タイミングを選択するリアル・オプションを考える.具体的には,Shibata (2008)のモデル(プロジェクト価値が Ornstern-Uhlenbeck 過程に従う場合について,Kalman filtering しながらタイミング選択を行なう)をもう少しだけ一般化し,一般化相補性問題として解く.ポイントは,プロジェクト価値の条件付期待値と条件付分散が従うダイナミクスが closed-form で得られる点だ.理論的な部分は出来たので,あとは数値計算プログラムの開発と数値解析.

さて本日は IS の合格発表.本研究室への配属を強く希望される合格者の方は,早期内定制度をぜひご活用下さい.

参考文献:
Shibata, T., 2008, The impacts of uncertainties in a real options model under incomplete information, European Journal of Operational Research 187, 1368-1379.

2009/08/18

確率的割引係数,Duncan-Mortensen-Zakai 方程式

午前中は「確率的割引係数(stochastic discount factor, SDF)」に関する演習課題を作成.伊藤の補題さえ知っていれば,Girsanov の定理や Radon-Nikodym 微分を知らなくても完備市場のSDFを計算できるように工夫した.

午後から非線形フィルタリングの特殊ケースで現れる Duncan-Mortensen-Zakai 方程式と pathwise-robust 方程式について勉強.非線形フィルタリング問題のある特殊なケースでは,観測情報を与件とした状態変数の条件付期待値が,2段階の変数変換によって「時点tでの観測情報y(t)」を含む「線形偏微分方程式」に帰着する.この偏微分方程式は Kolmogorovの前向き方程式(= Fokker-Planck 方程式)と同様,有限差分法で数値的に解くことができる.

並行して,学生と組み合わせオークションの数値シミュレーション結果を確認.現時点ではシミュレーション回数が十分とは言えないが,人数の増加に対して仲介者の損失はほぼ一定 or 極めて緩やかにしか増加しないように見える.

2009/08/12

参入オプションを対象とした2項モデルと無限満期モデルの解の整合性

標題の内容を検証するためのプログラムを学生に書かせていたが,昨夜確認したところあちこち間違っている(後述)ことが判明.軽微な修正では対応しきれないと判断し,全面的に作り直してみた.これが思ったより大変で,午後3時くらいまでかかった.

実装自体は簡単.大変なのは,以下の2つの要請を満足させようとすると問題規模が大きくなってしまうことだ:
[a] 二項モデルを無限満期モデルに近づけるためには,期間Tが十分長くなければならない
[b] 二項モデルが幾何Brown運動のよい近似となるためには,時間ステップΔTが十分短かくなければならない

さて,今回,学生が組んだプログラムの主な問題点は以下の5つ.
[1] 時点t+1の価値を時点tに割引くための係数の計算にΔTが使われていない.
[2] 二項モデルにおいて「状態変数が増加するときの変化率 u」と「状態変数が増加する確率 p」の計算が間違っている.
[3] 問題規模が少し大きくなるだけでハングアップする.
[4] このハングアップを回避するために T/ΔT を一定にしている.
[5] 状態変数の初期値が異なる問題のそれぞれに対して,2項ツリーを書き直している.

このうち,まず,[1, 2] は今井(2004)の誤りを鵜呑みにしたために生じたものだが,状態変数の増分の期待値と分散ぐらいチェックして欲しいものだ.Luenberger (1997) に正解が載っている.ただし,v = α-0.5σ^2 である点に注意すべき(これは状態変数の対数をとったものがBrown運動に従うことを考えれば当然).

次に,[3]の解決法として[4]はそもそも間違い.問題規模が大きくなっても計算できるように改良しない限り,要請[a, b]を同時に満足することは不可能.[3]は sparse 行列を活用することで解消できる.

[5]も計算時間の観点から問題だ.これに対しては,二項ツリーの再帰的な性質(i.e. 二項ツリーはどこで切っても二項ツリー)を活用する.具体的には,二項ツリーを「時点0」からTに向かって述ばすのではなく「時点 -J」から述ばす.こうすれば時点0でJ 個の「初期値」を持つ二項ツリーを生成できる.

で,作ってみたところ,無限満期モデルの解析解と二項モデルの数値解との誤差を1%未満にするためには,期間をT=100,時間ステップn=T/ΔTを1000個くらいにする必要があることが判った.これは,有限満期における陽解法アプローチの近似精度に対する批判(例えば,Huang and Pang,1998; Dempster and Hutton,1999; Coleman et al., 2002)とも整合的だ.

夕方,時間が適当に余ったので,確率動的システムの推計問題(特殊ケースとしてKalman filterを含む)勉強をしてみる→挫折.

参考文献:
今井潤一, 2004, リアル・オプション―投資プロジェクト評価の工学的アプローチ, 中央経済社.
Luenberger, D. G., 1997, Investment Science, Oxford Univ Pr.
Huang, J., Pang, J.-S., 1998. Option pricing and linear complementarity. Journal of Computational Finance2, 31–60.
Dempster, M., Hutton, J., 1999. Pricing American stock options by linear programming. Mathematical Finance9, 229–254.
Coleman, T.F., Li, Y., Verma, A., 2002. A Newton method for American option pricing. Journal of Computational Finance5, 51–78.

2009/08/11

プログラム2編

午前中は Complex Social Networks の勉強.あんまり進まない.

午後は報告会.
学生に任せようと思っていたが,やはり自分でCombinatorial Double Auction のプログラムを組む.
夜,binomial tree model で解いた参入オプションの価値が無限満期の解析解の近似とならない,という学生の主張を受けてプログラムを読む.うーむ.あちこち間違っとる.

プログラムを作る前に,どんな計算をするのか書かせる習慣が必要かもしれんなぁ

2009/08/10

Complex Social Network 第2章

バカの壁ちんぷんかんぷんの壁を乗り越えて 2.3 までなんとか進む.度数分布の母関数を使った一般ランダムネットワークの性質(e.g. ネットワークがぶつ切りの場合の各 component の度数分布の近似計算法,giant component の平均サイズ,clustering index)の分析はかなり「萌え」る.Mark Newman ってすごいんだな.

2009/08/07

Chap 2, Complex Networks: Basic Theory

2.1, 2.2 と調子よく読んでいたが,2.3 でペースダウン.neighboring node の分布までは判るけど,second neighboring node の分布から先がちんぷんかんぷん.

2009/08/06

査読報告書,Complex Social Networks

午前中~午後までかかって某英文ジャーナル向けの査読報告書を作成.

「この研究は○○という仮定以外に何も新しいところはない.それ以降の分析は教科書の演習問題レベルである.この2つの事実から,この研究の価値は,○○という仮定が reasonable であるか否かに不可避的に依存している.しかしながら,この仮定は(株価が負の値をとってもよいという仮定と等価なので)極めて非現実的である.そして,その問題に対処するには,論文全体を書き直す必要がある.以上のことから,本研究は現時点で登載には値しないし,(全面的に書き直すのでない限り)再投稿も推薦しない.」

というような内容.

午後は会議.

夕方からは待ち望んでいた Complex Social Network の第2章へ.

2009/08/05

一進一退

研究というのはいつもいつも前へと進んでくれるわけではない.

8/3
元の論文では均衡条件を「偏微分方程式制約つきの線形相補性問題(LCP-PDE)」として記述しているが,条件を丁寧につぶしていくと「非線形偏微分方程式(NLPDE)」に帰着する.NLPDEは差分近似すれば非線形連立方程式になるので,fsolve などの組み込み関数で解ける.解いてみたところ,変な振動解が得られる.

8/4
非線形偏微分方程式はおかしな挙動が出やすかろう,ということで,LCP-PDE を解いてみることに.制約条件の偏微分方程式をあらかじめ解いて線形相補性問題に代入すれば,非線形相補性問題(NCP)を得る.これを Yamada, Yamashita and Fukushima (1998) や Fukushima (1992) のアルゴリズムで解いてみたが,繰り返しの途中で merit 関数が減少しなくなる.もちろん,途中の解はぐちゃぐちゃ.

そこで,以前学生さんが作ったというプログラムをもらい,解析してみることに.

8/5
解析したプログラムでも実は問題が解けていない(途中で繰り返しを止めている)ことが判明.解決策を考えているうちに疑問が生じる.NCP の解の存在や一意性を保証するには,等価な変分不等式問題(VIP)の許容領域の凸性が鍵となる.この問題では許容領域が凸にならないのではないか,ということに気づき,workingpaper を作成.

行きつ戻りつしながら,数値計算をして,workingpaper を書いて,議論をして,問題点を見つけて,それを克服して,さらに先へと進んでいく.そういうプロセスには,研究の面白さが詰まっている.解けるかどうか判らない問題は,答えが判っている問題や,解けることが判っている問題の何倍も面白い(が,何百倍も大変).