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2009/04/28

リテラシゼミ,研究指導計画書

今年度からリテラシゼミというのをやることにした.目的は以下の3つ.
・客観的な事実と主観的な意見に基づき,論理的な文章を作成する技術.
・自分が理解している内容を,決められた時間内で他人に理解させる発表の技術.
・建設的に質問し,質問に対して的確に答える技術.

そんなん大学院まで行って今さらやることじゃないよ,という声も聞こえてきそうではある.しかし,きちんとした工学修士を出すためには,こういう技術は必要不可欠である.この主張には誰も反対すまい.そして,こういう技術を持たない学部卒業生が増えている以上,大学院できっちり身につけさせなければならないはずだ.仕事が無い人に「勤労と納税は国民の義務だよ」と言うのではなく,仕事を見つけてあげるのが大事なのと同じだ.

具体的に何をやるかというと,まず,文章を書く技術については,
・事前の準備.発表者(各回3名程度)は好きな本を一冊読んで,それに関する「何らかの文章」をA4用紙1枚に書く.
・ゼミ当日,発表者の作成した文章を全員に配布する.全員,数分でそれを読み,「文章の中で重要と思われる部分」や「判り難い部分」に印をつける.
・全員が順番に「重要と思った部分とその理由」を述べ,都度,発表者の意図を確認する.必要に応じて「どのように記述すれば重要な主張を読者に認識してもらえるか」を議論する.
・同様に「判りにくかったその理由」を述べ,都度,発表者の意図を確認する.必要に応じて「どのように記述すれば判りやすくなるか」を議論する.
・適宜,教員が「この文はこういう点が優れている」「この文はこうすれば良くなる」などをアドバイスする.
というゼミを全員が発表者になるまで繰り返す.

発表者にとっては,自分の文章がその場で「判らん」と言われたり,修正されたりするのは精神的にキツい.だが,それが却って「次はいい文章を書きたい」という向上心に繋がる.そのため,文章の良かった点はどこか,悪かった点をどう直せばいいかを具体的に示すことが大事.

発表者以外にとっては,文章をその場で読み,重要な点と判らない点を素早く拾い上げる能力が身につく.もちろん,発表者がツッコまれてるのを聞いてる内に,判りにくい文章とは何か,どう直せば判りやすくなるのか,が判るようにもなる.

次に,発表技術については,
・事前の準備.発表者(各回2~3名程度)は,自分の好きな(あるいは興味ある)スポーツのルールを調べ,それを5分間で説明するプレゼンテーション資料を作成する.
・ゼミ当日,5分(時間厳守)で発表し,参加者全員に「判りやすかった」「判りにくかった」を挙手させる.
・「判りにくかった」に手を挙げた参加者に「どの点が判りにくかったか」を述べさせ,発表者に回答させる.
・「判りやすかった」に手を挙げた参加者に「なぜ判りやすいと感じたか」を説明させる.
・適当な数の学生に意見を聞いた後「どのような点に注意すれば判りやすいプレゼンになるか」について議論させる.
というのを全員が当たるまで繰り返す.

発表者は膨大なルールを5分以内にまとめるために内容をどう絞るか,どういう順で話すべきかを一所懸命考える.実は,このプロセスこそが判りやすいプレゼンに必要不可欠.

質問者にとっては,大抵のスポーツのルールはある程度知っているだろうから「無知だから質問できない」という気持ちにならずに遠慮なく質問できる.回答者も「知らないから答えられない」ということはないので,きちんと質疑応答になる.

このリテラシゼミは助教時代に思いついたもので,神戸大で一回だけやったことがある.その年の学生は,自分たちでお互いの文章やプレゼンをチェックするようになってくれた.電通大でも同じことができるかどうか.